『たからもの』

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「お前は俺のたからものにする」 なんの脈絡もなく、彼はあたしの髪を撫でて言った。 陽射しに微睡みかけた午後二時、あたしは薄目を開けて彼の顔を見遣った。 「なに、あたし“物”なの?」 「そこに食い付くとこ辺りが可愛くないよね」 さいですか、素っ気なく答えてまた目を閉じた。まるで猫を撫でるように彼の大きな手のひらは変わらずあたしの髪を滑った。 「“物”って裏切らないじゃん? だからお前はたからものに成り得るでしょ?」 「それは何の予防線?」 「確信の間違いだよ」 「自意識過剰なんじゃない?」 少し笑って言うと、彼はあたしの髪を一房摘まんで口付けた。 「お前が俺をそうさせるんでしょ」 陽射しに透ける色素の薄い髪が眩しく煌めいた。 まるで宝石のような。 華やかな箱庭で飼い殺されるのも、悪くはないかもしれない。 ++END
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