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「おいっ」
俺の言葉に体を小刻みに痙攣させる。
「座れよ……」
堪らず声を掛けた。
「あっ、いえっ…、このままで大丈夫です」
女は両手を小さく振って断る。
一生懸命無理して作る、ひきつった笑顔を見て、なんだか罪悪感に襲われた。
テレビから流れる、ホテルのインフォメーション番組も場を和ますことは出来ない。
「いいから、座れって」
「……となり?」
「そこの椅子に座ったら?」
「……はい」
最初の印象とは大きく異なり、かなり弱々しい。
俺は誘拐犯か……?
また少しばかり気が滅入る。
「腹へってないか?」
「い…いえっ、大丈夫です」
この状態では空いてても云わないだろう。
俺は冷蔵庫から缶コーヒーを二本取出し、一本を女へ手渡した。
恐る恐る受け取ると、何やらバッグから取り出す。
ヘアピンだ。
どうやら、長い付け爪のせいで、缶コーヒーの口が開けられないようだ。
仕方ない……。
大きなため息をつくと、手を伸ばし、かわりに開けてやる。
「あ……、ありがとうございます」
女は少し落ち着いたのか、幾分態度が弛む。
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