558人が本棚に入れています
本棚に追加
鉄格子ごしに眺める外はどしゃ降りの雨……。
あの朝のような、心の凍てつく冷たい雨……。
――10年前。
無数の赤色灯が、辺りのイルミネーションより鮮やかに壁や塀を染め上げていた。
騒ぎを聞き、窓から顔を出す野次馬たち……。
飴にたかる蟻のように、ぞろぞろ集まる見物人。
――静かな朝だった。
警棒を振り上げて威嚇する警官も、
銃を片手に罵声を浴びせるヤクザの声も、
まったく耳に入らない。
雨音さえも届かない……。
――とても、
とても静かな朝だった。
遠ざかる意識の所為か、強烈な紅いも色褪せ、モノクロームに変わりゆく視界の中で、
ただ一つ濁った眼に映る、
泣きじゃくる少女の姿……。
忘れることの出来ない…、
名前しか知らない少女の姿………。
最初のコメントを投稿しよう!