序章

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鉄格子ごしに眺める外はどしゃ降りの雨……。 あの朝のような、心の凍てつく冷たい雨……。 ――10年前。 無数の赤色灯が、辺りのイルミネーションより鮮やかに壁や塀を染め上げていた。 騒ぎを聞き、窓から顔を出す野次馬たち……。 飴にたかる蟻のように、ぞろぞろ集まる見物人。 ――静かな朝だった。 警棒を振り上げて威嚇する警官も、 銃を片手に罵声を浴びせるヤクザの声も、 まったく耳に入らない。 雨音さえも届かない……。 ――とても、 とても静かな朝だった。 遠ざかる意識の所為か、強烈な紅いも色褪せ、モノクロームに変わりゆく視界の中で、 ただ一つ濁った眼に映る、 泣きじゃくる少女の姿……。 忘れることの出来ない…、 名前しか知らない少女の姿………。
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