第一章

2/9
前へ
/71ページ
次へ
――真夜中のコミックカフェ。 店内は、終電のなくなったサラリーマンと若い男たちで、ほぼ満席だった。 俺はここで夜が明けるのを静かに待っていた。 目立たぬよう、七三分けに銀縁メガネ。 地味なスーツとネクタイ。 どこから見ても、うだつの上がらない中年サラリーマン。 ――しかし、今はこれでいい。 静かに、ひっそりと、 街に溶け込んでいく。 目的のため、 今はこれでいい……。 自分に云い聞かせ、シートを倒すと、ゆっくり眼をとじた。 眠れるときに眠っとく。 思うものの、なかなか寝つけない……。 神経が尖っているからか? 布団の中ではないからか? それも確かにあるだろうが、一番の原因は、 ……周囲が五月蝿い。 いびき、携帯電話、独り言……。 みんな、よく我慢できるものだ。 ――仕方ない。 今は時間が経てばいい。
/71ページ

最初のコメントを投稿しよう!

558人が本棚に入れています
本棚に追加