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『…貴方は、今の現状を変えたいと思いませんか…?』
薄暗い路地裏。
いつもは通らない、この道を通っているのは、いつもよりも退社時間が遅くなってしまったから…
心なしか、早足になっていたあたしの耳に、どこからかそんな言葉が届いてきた。
足を止める必要なんてない…
そんな気持ちとは裏腹に、あたしは声の主を探した。
『変なモノでも売り付けるつもりですか?』
電柱の片隅に立ち尽くしたままの老人。
その老人は、少しだけニヤリと笑って、顔の前で一つの鍵をユラユラと揺らした。
『貴方の幸せへの鍵です』
足を止めた自分が馬鹿馬鹿しい。
聞こえるようにため息を漏らし、踵を返した。
『幸せになりたければ…また来なさい』
老人の声は、小さく聞き取りにくくなっていた。
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