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「ではこれで失礼します」
彼のこの一言で我に返る。
危ない危ない。
彼に見とれてしまっていた。
私の顔、大丈夫だった?
変じゃなかったかな?
ボーっとして間抜けな顔してなかったかな?
焦りを表に出さないように平静を装って、私はまた笑顔を作る。
「お気をつけて」
首を少し傾けながら可愛く言えた。
今のは良かった。
念のため、後で鏡の前で再現してチェックしよう。
私と彼は、お辞儀しあって挨拶を終わらせた。
彼が去ってゆくのを見送り、そしてゆっくりと玄関のドアを閉める。
閉めたドアにもたれかかりながら私は、さよならしたばかりの彼の余韻に浸り始めた。
小さなため息が出る。
心拍数が上昇する。
体が熱い。
ああ
もっと話したかった。
名残惜しい。
会ったばかりの彼はなぜこんなにも私の心をくすぐるんだろう?
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