序章

3/10

10904人が本棚に入れています
本棚に追加
/422ページ
充分に温まった弁当と冷えたビールを準備し、リビングでテレビを見ながら今日の夕食が始まった。 家と会社の往復。 一人の食事。 毎日同じことの繰り返し。 突如として虚しさや孤独感が私に襲いかかる。 ──こんなはずじゃなかった。 気付けば、私は33歳になってしまっていた。 ほんの数年前までは若くてチヤホヤされてたのに。 いや、若さだけのせいじゃない。 絶世の美女とまではいかなくても今まで幾度となく、『かわいい』『綺麗』と言われてきた。 それなりに自信だってある。 私はいい女だ。 ただ少し──年をとってしまっただけで……。 私はあの頃と何も変わらない。 今だって。 ほら、綺麗でしょ? ふと、テーブルの上にある小さな鏡に目がいく。 鏡の中の私の顔。 目の下には青黒いクマ。 目尻の細かいシワ。 弛んだ頬。 くっきりと線を描く法令線。 血色の悪い肌。 そこには疲れた女の顔が映し出されていた。
/422ページ

最初のコメントを投稿しよう!

10904人が本棚に入れています
本棚に追加