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あまりの驚きで、反射的に体がビクッと震えた。
抱えていたケーキの箱がスルリとすべり落ちてゆく。
ちょっと待って!
落ちないで!
掴もうと必死で手を伸ばしたけど、間に合わなかった。
──最悪だ。
転がった箱を手にとり、ソーッと開けて中身を確かめる。
あ……
崩れてない。
大丈夫だった!
ロールケーキは奇跡的に綺麗なまま。
今日の私はやっぱりツイてる!
開けたケーキの蓋を丁寧に閉じた後、安堵のため息が出る。
さっきまでの沈んだ気持ちは嘘のようだ。
今日の星占いは、一位確定ね。
上機嫌の私が、次に目指すのはドアスコープ。
胸が弾む。
体も弾む。
多分、彼だと思うけど、一応確認しないとね?
だってほら。
最近は犯罪が多いじゃない?
もしかしてストーカーとかだったら怖いでしょ?
私は息をひそめてそれを覗き込む。
──いた。
ドアを一枚隔てた向こう側に、会いたくて仕方がなかった彼がいた。
こんな小さなドアスコープから見える彼も、変わらず素敵だ。
私は、緊張を隠しながらゆっくりドアを開ける。
生身の彼が、少しずつ私の視界に入って来る。
「こんばんは」
そう言って彼は私に微笑みかけた。
「こんばんは」
私も笑顔でそう言った。
勿論、上目づかいも忘れずに、ね。
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