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ああ、やっぱりこの人はかっこいい。
優しげな目も、スッと通った鼻筋も、形のいい唇も。
全てが私の理想としてた顔つきだ。
その上スタイルだっていい。
ただそこに立っているだけなのに、体から色気を感じる。
まさに、一目惚れだ。
「先日は夜分に失礼しました。今日引っ越しが済みましたので、今後ともよろしくお願いします」
彼は、穏やかな笑顔のまま口を開いた。
男らしい低い声に溶けてしまいそうだ。
甘い顔とのギャップがたまらない。
私は上目遣いの目で、鏡の前で散々チェックを重ねた最高の笑顔を作り、彼に向ける。
「お疲れの所わざわざありがとうございます。
こちらこそよろしくお願いします」
言いながらちょっと首を傾けてみた。
我ながら可愛い。
どう?
こないだと違って、今日の私綺麗でしょ?
見た瞬間ドキッとした?
全部、あなたの為に頑張ったんだから。
もっともっと私を見て欲しい。
そして私の事を意識して欲しい。
彼は私を見ながら、少し苦笑いをしてこう言った。
「引っ越しって大変ですよね。
今日はほんとに疲れました」
苦笑いの後、彼はうんざりしたような表情を浮かべた。
──可愛い。
思わず口に出してしまいそうになって冷や汗が出る。
危なかった。
あ、そうだ!
ケーキ渡さないとね。
あなたの為に買ってきたんだから──……
「大変でしたよね。お疲れ様です」
そう言ってロールケーキの箱に手を伸ばそうとした時、かすかに足音が聞こえたような気がした。
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