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その瞬間、私は最も最悪な事実を知った。
「これ、つまらないものなんですけど、どうぞ」
呆然と立ち尽くす私に向かって、女は手に持っていた包装紙に包まれた箱を差し出した。
引っ越しの挨拶代わりの「モノ」なんだろう。
それは綺麗にラッピングされていた。
衝撃の事実に打ちのめされていた私の心を、綺麗にラッピングされたそれが、また更に私を悲しくさせる。
──結婚してた、なんて……。
「ありがとうございます……」
言葉少なに力なく微笑み、私はそれを受け取った。
手が震える。
受け取った私を見て、目の前の二人はお互いに視線を合わせながら微笑み合っている。
……やめてよ。
私の前でイチャつかないでよ……。
彼は私に視線を移しかえて、話し出す。
私の好きな、低い心地のいい声で。
「ではこれで失礼します。まだ荷物が片付いてないのでうるさくてご迷惑おかけしますが、よろしくお願いします」
「……いえ。気にしないで下さい。……じゃあ失礼します」
ドアを閉める間際、「澤村夫妻」は軽くお辞儀していたけど、私はそれに気付かないフリをして無視して閉めた。
あんなに浮かれて、私はどうしようもない馬鹿だ……。
心の中の渦巻いていた黒い波に、私は完全に飲み込まれていた――
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