10904人が本棚に入れています
本棚に追加
/422ページ
あ……雨だ。
コンビニを一歩出ると、雨がパラパラと降り出していた。
真っ暗な空からとめどなく落ちてくる冷たい雨。
天気予報では夜中から雨だと言っていたのに。
勿論、傘なんか持ってない。
あーあ……。
さっきから私はついてない。
濃いグレーに染まってゆくアスファルトを見つめながら、私は深いため息をつく。
予想外の雨を前に、私はただ立ち尽くしていた。
仕方ない。
コンビニに戻ってビニール傘でも買うとするか。
再び、コンビニへと足を向けようとしたその時。
「一緒に帰りませんか?」
──え?
私は、そう声を掛けられて顔を上げた。
その声と共に、目の前に差し出された赤い傘。
同時に、私の視界が赤に染まる。
「……あ」
驚きで言葉が詰まる。
帰ったと思っていたあの女が、私の前に立っていた。
「雨、降って来ましたね。傘お持ちじゃないなら良かったら入って行かれませんか?帰り道一緒ですし」
赤い傘を差し出しながら、女はニッコリと微笑む。
この女……。
まだここにいたんだ。
私は女の左手を見た。
白く細い薬指にはめられたリング。
それはまるで、その存在を主張してるかのように光り輝く。
そして、その手に握られたプリンの二つ入った袋が、忌々しげにユラユラと揺れていた。
最初のコメントを投稿しよう!