我が儘な恋人

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「あ、うん作り置き」 俺は少し照れて答えた。 (この前の手紙忘れてた) 俺は加藤さんの笑顔を見て少し罪悪感を感じた。 「瀬野くん、料理が得意なんだよね、羨ましい」 (神様、ごめんなさい) 加藤さんの笑顔に俺は心苦しくなってしまった。 (加藤さん、佐伯が好きなんだよな) 俺は何故か寂しく感じた、二人ならお似合いのカップルに違いないのに。 「おい!」 佐伯が俺の腕を掴んだ。 「何?」 「また切るぞ」 俺は自分の手元を見て溜め息を吐いた。 「どうした?何かあったのか?」 (心配してる) 無表情に見える顔に少しだけそう感じた。 「・・・・別に、加藤さんと会って幸せを感じてたんだ」 俺は強がりの様に佐伯に言うと佐伯は少し怒った様に掴んだ腕に力を入れた。 「っ!痛い」 「加藤が好きなのか?」 冷たい口調、俺は怖いと感じた。 「そ、そうだよ!美人だし優しいし、好きだよ!悪いか?」 俺はムカついて佐伯の腕を振り払って睨んだ。 「なっ!・・・・んっ」 佐伯が唇を重ねて来た、激しく繰り返し。 「あっ、何?」 冷たい目、俺は怖くて佐伯から逃げようとした。 「やっめっ」 佐伯は乱暴に俺を押し倒した、何も言わない、ただ佐伯は俺に触れた。 「んっ!やぁっ!!」 何度も何度も佐伯は俺に触れてそれは繰り返された。 「瀬野」 「触るな!出てけ!お前の顔なんて二度と見たくない!」 俺が叫ぶと佐伯は何も言わず出て行った。 (何で、何でだよ) 痛む体を俺は両腕で抱き締めるように座り込んで泣いた。 あれから数日、佐伯は来ない、俺は何もする気になれずぼぉと過ごす日々が続いた。 (これ、加藤さんの手紙) 俺は泣きそうになる、何故佐伯が俺を抱いたのか、何故俺は毎日佐伯の事を考えてるのか、矛盾した気持ちだけが俺の中で渦巻いて居た。 「っ!馬鹿佐伯」 学校に行けば真面目な佐伯の事だから会えるだろうが怖かった。 (馬鹿は俺か、好きなんだ佐伯が) 会わない日々の中、佐伯の顔だけが鮮明に見えた。 夏休み明け、まだ暑い中、俺は足取り重く学校に向かった。 「おはよう!」 「久しぶり!」 校舎へ向かう前に俺は弓道部の部室に向かう。 (確かめないと) 俺はポケットに加藤さんの手紙を入れて緊張しながら向かった。 (居た) 弓を射る佐伯、何日かぶりに見た。 「せ、の」 佐伯が俺の名前を呼んだ、俺は堪えきれずに走った。 (うわぁ何俺逃げてるんだよ!情けない)
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