我が儘な恋人

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俺は振り返らずに屋上へと逃げた。 「はぁはぁはぁはぁ、っ、情けねぇ」 俺は、自分の情けなさに涙が流れた。 気付いた気持ち、それを伝えるのが怖くて俺は顔を見ただけで逃げたのだから。 「瀬野」 佐伯の声、俺の腕を掴み、不安な表情をしてる。 「佐伯」 俺は平手で佐伯の頬を叩いた。 「これで良い」 佐伯は微笑んだ、今まで見た事の無い佐伯の笑顔。 「良くねぇよ!ちゃんと説明しろ!俺はお前に何の説明もされずに犯されたんだぞ!」 悔しかった、佐伯の笑顔を見てまた俺の情けなさが目に見える様で悔しくて俺は捲し立てた。 「すまない」 申し訳なさそうな表情で佐伯が呟いた。 「俺は、お前が好きなんだ!悔しいけど好きなんだ」 俺は叫んでた、叫んで涙が流れて、頭が真っ白になって居た。 「瀬野」 佐伯の腕は暖かく俺を包んだ、俺は佐伯にしがみついて泣いて居た。 「ごめん、好きだ、愛してる」 佐伯は何度も俺が安心するように繰り返し言葉をくれた。 髪、額、頬、唇、佐伯の唇は優しく触れた。 「あら、上手くいっちゃったんだぁ」 帰りしな、残念そうに加藤さんは呟いた。 「佳奈」 佐伯は苛立った様に加藤さんの名前を呼んだ。 「佐伯?」 「人の事呼び捨てにしないでよね!」 加藤さんは不満そうに呟いた。 「瀬野、こいつだけには近づくなよ」 佐伯は加藤さんを睨んで言った。 「私たち従兄弟なのよ」 俺は驚いて口を大きく開けて立ち尽くして居た。 「煩い」 「でも、加藤さんは佐伯の事」 俺は思い出してポケットの封筒を取り出した。 「あら、瀬野くんまだ持ってたのね、開けて見て」 俺は加藤さんに言われて封筒を開けた。 「私の趣味、瀬野くんから渡した方が喜ぶから」 中には数枚の写真、それは俺の写真だった。 「頑張ってね」 加藤さんは楽しそうに手を振って行ってしまった。 「それ俺のだろ?」 「誰が渡すか!」 俺は無口で我が儘な佐伯といつまでも笑って居たい、パシリじゃなく恋人として。
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