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しかし、事態はそれほど悠長に話をしていられる状況ではなかった。振り向けばすぐ後ろに男の姿があった。
そして何より、桜の顔が何も聞くなと語っているように明美には感じられた。
地の利はこちらにあるらしく、桜は住宅街を右に左に走って行く。
やがて、明美にも見覚えのある風景に。
桜が止まった先は明美の家の前だった。目で家の中に入るように促している。
「――!」
少し遠くからあの男の声が聞こえてくる。
声が聞こえてくるだけで明美は恐怖した。そのままいそいそと家の中に入って行く。
明美がしっかり家の中に入ったのを確認して桜はまた走り出す。
「なんなのよ……アレ」
部屋に戻った明美は自分の体がガタガタと震えていることに気が付いた。
今までどんな心霊スポットに向かっても恐怖することなかった明美であったが、今はまるで生まれたての小鹿のようにブルブルと震えている。
体の震えは陽が落ち、夕食時になるまで収まらなかった。
夕食後、桜からメールが一通届いていた。
[今日の事は、忘れた方がいいよ。あともうアソコには近づかないで。お願い……]
と。
このメールが何より今日の出来事が夢でなかった事を物語っていた。
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