トラウマ

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「何でっ…ぃっ!」 今度は背中に痛みが。 蹴られた? どうして…? 「許可なく喋るな」 「…っん!」 「うるさいし面倒」 また蹴られた。 次は横腹。 痛い…怖い…! 「萌」 「っ!」 ビクッとしても、声だけは出さないように必死で口を押さえる。 甲野さんはさっきの状態のまま、私の目の前に立ち、私を見下ろしている。 ――この前、初めて会ったときと同じ… 私の中でみるみる恐怖が迫り上がってくる。 あの先生と同じようにされるの? ぼろぼろにされるの? そう思うと怖くて怖くて、自然に涙が出てきた。 嗚咽が漏れそうになるのも必死で押さえる。 苦しいけれど、彼に蹴られるよりいい。 苦しいだけなら我慢できる。 でも、その我慢の捌け口のようにどんどん涙が溢れる。 止まらない涙で視界はぼやけていく。 「……っ」 乱暴に髪を掴まれ、顔をあげる。 甲野さんが顔を近付ける。 「昨日はよくも邪魔してくれたね」 声を張った訳じゃないのに、その小さく呟くような言葉は私の体に染み渡る。 私は動けなくなった。 その言葉から、その目から、その雰囲気から。 恐ろしいほどの怒りが伝わってきたから。 「………ご…めん……なさい」 これ以上機嫌を損ねたくなくて、必死に謝ろうとするのに、震える私の口は思うように動かない。 怖い… 「許して……下さい…」 「……」 突然頭が解放された。 涙がどっと流れる。 掴まれたところがじんじんして痛い。 痛みを堪えようと、頭を押さえてうつむく。 なんで放してくれたんだろ… 許して…くれた? 「萌」 「っ!」 また名前を呼ばれる。 反射的にびくっとなってしまう。 「君は独りだよ」 ……?
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