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「お願いします!!」
女を訪ねて来た中年の夫婦が、彼女に深々と頭を下げる。
「……と言われましても」
彼らとテーブルをはさんで対面している女は、困った顔をして、自分で淹れた熱い緑茶をすすった。
「そこを何とか…!私たちはもう、貴女にすがるしか……」
そう懇願する男の言葉に、彼女はますます困った顔をして、自分の右手の平を額に当て擦りつけた。
それから手の平は右目を通り、右頬を通り、右の首筋を通って右側のおくれ毛の辺りをぽりぽりと軽く掻いた。
別にそこが痒かった訳ではない。
ただ、それくらいどうしようもなく困っていたのだ。
さっき持っていた湯飲みの熱が、まだ右の指先にに残っていた。
ため息混じりに彼女が言う。
「どこでその噂をお聞きになったのか知りませんけど、専門外なんですよ……浄霊とかって」
「分かっています。私たちは……それをお願いしている訳ではないんです」
どうにか依頼を取り下げてもらおうと思っていた女だったが、そう言った男の意味深な言い回しに、彼女の胸の辺りに何かが引っかかった。
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