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あの朝、おれは兄の蒔希(シキ)と一緒に、これから暮らす事になるこの町をのんびりと散歩していた。
もう五月になっているが、例年より寒かったせいか桜はまだ完全に散ってはいない。
朝はまだ少し肌寒く感じるが、昼になればきっと暖かくなるだろう。
宙は足元で咲き乱れるツツジを見て、ふわりと微笑んだ。
「東京って緑の無いイメージあったけれど、完全に無いって訳じゃないんだね」
「そりゃそうだろう。都会にだって、木も花も植えられているさ。少しは落ち着いた?」
「んー……少しだけ、ね……」
蒔希はフッと優しげな笑みを浮かべると、宙の髪をわしゃわしゃと撫でた。
「明日から学校だろ?そこで沢山友達作れば、きっともっと落ち着く事が出来るぞ?」
「……うん。そうだね……」
友達を作れば、きっと慣れない東京の生活も楽しく感じるだろう。
けれど、おれは友達を作る気は全くない。
友達なんて、どうせ最後は別れるものなのだから。
家族と違って、縁なんて簡単に切れてしまうものなのだから……。
そんな脆いものなんて、おれは欲しくない。
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