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片付けが終わったのか、キッチンからエプロンで手を拭きながら、浮かない顔で出てきた。
俺は、天井近くにかけられた銀盤の時計に目をやる。
時刻は間もなく午後10時。
なるほど、そういう事か。
「おい、先風呂入って来い。出て曲がったとこにあるから」
学生からすれば、この時間はもう風呂に入りたい時間だもんな。
すると、努杜は少し困ったように眉を寄せたが、時計を見上げてから頭を下げた。
「お風呂、頂きます」
「クス、律儀な奴だな。これから使ってくんだ、礼なんか要らないぞ?」
「あ、ありがとう……」
「あるもんは好きに使えよ」
「はーい」と間延びした返事をすると、ご機嫌にも風呂場に足を向けた。
数十分して、努杜は上がってきた。また浮かない顔をして、だ。
俺は気付かれないように、小さく笑った。飽きない奴だな。
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