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案の定寝る場所の事だった。もともとこの家に客室は用意していない。
家に入れる事はあまりないし、入ったとしても同じベッドしか使わないからだ。
そんな感覚が普通の俺と、おおよそ全く男の経験がないだろうこの女。
その違いに、少し自嘲して、俺は寝室をやる事にした。
戸惑ったようだったが、俺が良いんだと諭すと、渋々納得したようだ。
別にこれから少しとは言え、一緒に暮らすんだからもっとわがまま言えばいいのに、と俺は努杜を案内してから入った風呂の中で思った。
女なんだから地べたで寝るだなんて言わなくとも、少しの間だし、大切な契約の要の娘だしな。まぁ、俺が引き取らなくても良かったんだが。
なんとなく、引き受けてみれば今は正解だと思っている。退屈していた最近に、少しの楽しみが増えた。
だから、ベッドで寝たいと主張すれば俺だって簡単に譲る。
と言うか、こんな事思ったのは初めてだ。「わがまま言えばいいのに」なんて女に対して思ったのは。
カラスの行水の俺は、数分して風呂から上がった。
寝室には向かわず、リビングへ。
冷蔵庫を開ければ、今日買ったミネラルウォーターが入っていた。俺は断然ヴォルヴィック派だ。それを一本取り出し、ソファーに深く腰掛けた。
そういや今日も疲れたな、なんて思いながら水に口をつけ、喉に流し込む。
体に染みる感覚がたまらない。
静かな空間に、俺の喉がなる音、それにこれは……
「泣き声……?」
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