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「あの本当に本人から頼まれたんですけど……」
「ですから社長に私用ではお会いできません」
急いでくれ。という真田の言葉が、ぐるぐる頭の中で回って、焦燥感を駆り立てる。それに加えて、私を一切受け入れない受付嬢になんだか、イライラしてきた。
「私用じゃないです!」
「嘘は結構です。あの真田社長が、あなたみたいなガキを相手するはずがないでしょう」
プッチーン。本当に、頭の隅っこで、こんな擬音語が聞こえたような気がした。
「あの社長って、私がガキって……。真田がなんぼのもんじゃーい!」
「はぁ?」
「あの人はね買い物に行ったらまず、真っ先にお菓子コーナーに行く人なんですよ!私がガキって言うなら、あの人もガキです!!」
まるっきり関係ない事を口にしているのは、分かっていたし、いけないという事も頭では分かっていた。
「社長はそんな事絶対しません!」
でも、この受付嬢が作る真田の理想像は、私が実際見てきた彼とは違う。
「会社ではあまり喋らない」と言っていた意味が、ここにあるのだ。
彼はこの会社を統べるには、若すぎる。それをカバーするために「完璧」を装っているのだ。
彼が、家に帰ってくると心底疲れたような顔を時折みせるのはこのせい。
「他には、アイスは絶対バニラ以外食べないし、冷蔵庫の中身に至っては牛乳しか買わない人なんですよ!!」
だから、そんな理想を彼にあまり演じさせて欲しくはない。
あくまで、私は同居人だから!疲れた顔を見てたら、気を使うでしょ!
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