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苦痛でしかない時間が終わる。
軽い鞄を持ち、席から立ち上がる。
そして、一足先に教室を出ようとすると、入口のところで丁度、俺のクラスの担任と鉢合わせした。
「あっ、優太君……もう帰るんですか? まだ帰りのホームルームが……」
胸元で生徒名簿を両手で抱え、眼鏡越しに不安げな眼差しで俺を見つめてくる。
俺のクラスの担任教師であり、俺がバスケ部だった時の顧問。
永山瞳(ながやま ひとみ)先生。
スーツを着こなし、細身な体格、二十代後半とは思えぬその童顔。
生徒達にもフレンドリーに接してくれるため信頼も厚い。
俺にも気軽に接してくれていた。
「瞳先生……すんません……その、急いでるんで」
「優太君……」
俺は先生に振り返りもせず、早足に教室を後にする。
階段を降りるために廊下の角を曲がる時、ちらりと教室の前に目をやると、瞳先生がまだこちらを見て立ち尽くしていた。
カツカツと階段には俺の足音だけが響き、それ以外は静寂が支配していた。
下駄箱に着き、乱暴に上履きを突っ込む。
俺は鞄を肩に背負い、まだ誰もいない校門をくぐり抜け学校を後にした。
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