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結界の中
ダッと俺は駆け寄って。
ゴクリと息を呑んだ。
朦朧とする意識の中で
うっすら目を開く兄ちゃんは
青白い顔をしてて。
刺された所からは
ドクドクと血が溢れていて。
…もう、ダメなのかな。
兄ちゃんは強いもん!
だから大丈夫。
そんな二つの意見が
俺の頭の中で討論をしていた。
『佑…希……』
『…兄…ちゃん…』
しゃべっちゃダメ!
傷口が―……
…そう言いたいのに
声が出ない。
『ごめん……ね?
僕、佑希を守り切れなくて…』
…痛みからか、
兄ちゃんの目から涙が溢れる。
俺はヘタリと座り込み
兄ちゃんの手に自分の両手を重ね
ギュッと握り締めた。
徐々に冷えていく
兄ちゃんの身体を温めるのと
祈りの意味を込めて。
『……僕…
佑希と双子に生まれて良かった』
―――俺もだよ。
『辛いことの方が多かったけど
佑希が傍に居てくれたから
僕は笑っていられた。
佑希……スキだよ…』
―――知ってる。
俺も兄ちゃんがスキだから。
『…もっと……
一緒…に…いたかった…。
生きたかった…。
佑希…と…二人…で―……』
『…兄ちゃん?』
その言葉を最期に
身体から全ての力が抜けて。
ゆっくりと瞳が閉じられて。
俺の手の中から
兄ちゃんの手が滑り落ちた。
『…兄ちゃん…?
……っ、兄ちゃんっ!!』
―――大切だった。
何よりも、貴方が。
俺の全ては
貴方を中心に回っていて。
二人で一人。
だから死ぬのも一緒。
今の今まで
ずっとそう思っていた。
だから。
『うわぁあぁあ!!』
兄ちゃんを抱き寄せて
力の限り叫んだ。
『死んだ』
そんな現実を、
兄ちゃんのいない世界を
俺は決して認めたくなかった。
認めたらいけないと思った。
『…………』
―――由佳は
眠るように死んでる兄ちゃんと
叫びだした俺を
交互に冷たい目で見下した後。
口早に封印魔法を唱えだした。
懍とした綺麗な声が
辺りに響き渡る。
…と思った次の瞬間!
ビリリという痛みが身体を襲う。
麻痺させられたようで
ほとんど動けなくなった。
『い……いやだっ!!
由佳っ、由佳!!』
それでも俺は
まだ諦めようとはしなかった。
普通に生きていたくて。
封印なんかされたくなくて。
……兄ちゃんの傍に居たくて。
俺は残る全ての力を振り絞り
由佳への抵抗を試みた。
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