第一章

9/17
前へ
/525ページ
次へ
『…そんな睨まないでよ。 ふふっ、大丈夫。 佑希は封印するだけだから』 彼女はそう言って 俺に背を向け離れていく。 俺はそんな由佳を ただジッと見つめるだけだった。 『佑希は』封印するだけ… その言葉がどうも 俺にはしっくりこなかった。 俺は、封印されるだけ。 じゃあ兄ちゃんは―……? そんな疑問が ふと頭に浮かんだ時。 ―――ドォオォォンッ!! 『佑希ぃ―!!』 ど派手な破壊音と 兄ちゃんの叫び声が聞こえた。 常に笑顔で優しい兄ちゃんの 初めて発する大声からは 余裕なんて感じられない。 『必死』 ただそれだけ――― 『…あぁ、来ちゃった……』 由佳がそう ひっそり呟くのが聞こえた。 だけど俺は 兄ちゃんの事で頭がいっぱいで。 由佳は由佳で 俺に対して背中を向けていて。 今どんなことを考えて どういう表情をしてるかなんて 俺にはわからなかった。 わかろうともしなかった。 『佑希っ!』 『すごい』 兄ちゃんを一言で表すなら この言葉で。 出てくる敵を片っ端から バッサバッサと薙払い。 俺にすごい速さで近づくと 手を差し伸べた。 『……佑希っ』 『兄ちゃんっ!助け……』 流れる汗を拭いながら 優しい表情をする兄ちゃん。 もう、大丈夫だよ…。 その顔が、表情が そう言ってるような気がした。 それに俺はひどく安心して、 差し出された手を掴もうと 手を伸ばした。 なのに―…… ―――ドッ… 『由っ…佳…… どうし……て…っ…』 『……さよなら…』 突然目の前で起こった事のせいで 俺の手は兄ちゃんに届く事なく 宙を放浪う。 ……ウソだろう? 俺は自分の目を疑った。 何かの間違いだと、 悪い夢だと信じたかった。 ―――だって。 兄ちゃんの胸には 由佳の愛刀が突き刺さり。 先端からは鮮明な血が ボタボタと溢れているのだから。 時が止まったかのように 全く動けないでいる俺。 そんな俺の存在を無視して 由佳はズッ…と刀を引き抜いた。 『………ぁっ…』 その辺り一面が 兄ちゃんの血で赤く染まる。 赤く、紅く、朱く…。 フラリと身体が傾いたかと思うと ドサッと膝から崩れ落ちる 兄ちゃん。 それを見て 瞳に涙を浮かべて叫ぶ俺。 『……っ、兄ちゃんっ!!』
/525ページ

最初のコメントを投稿しよう!

402人が本棚に入れています
本棚に追加