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「ふう…行ったか…」
K.Kが肩を撫で下ろして言った。やはり彼も、No.2の前ではかなり緊張していたようだ。額から冷や汗がこぼれているのが見えた。
「バーラットかぁ…よし、気合いを入れに行かなきゃいけねえな」
一方シブ・アニル・アンバニは両手を組み、パキパキと関節を鳴らして楽しそうに言った。やはり、彼とバーラットの関係は強いらしい。今にも行きたそうにしているのが、容易に見てとれた。
「しかし、同じ陣営の筈のGAにねぇ…」
K.Kは急に話題を変え、呆れたように言った。
「仕方無いよ。イクバールとGAはもともと対立してたんだし…」
それに、私が答えた。イクバールとGAの間には、食糧分野での深刻な利害関係がある。国家解体戦争の際に、六大企業グループが協力したのは、今から考えれば奇跡だった。このグループ全てが互いに対立を深めたら…と考えると恐ろしい。
だが、それが起こりかねないのも現状だ。将来、壊滅するグループだって出るだろう。
「ま、そんな難しい事は置いといてよ…。俺達は俺達で、戦えばいいだけの話じゃないか」
それを聞いたシブ・アニル・アンバニは、気楽な口調で言った。…確かに、そうだ。私達リンクスは、あくまで企業の駒だ。企業に反すれば、只のテロリストになってしまう。
「…各々で、戦う理由があれば良いと?」
私はシブ・アニル・アンバニに尋ねた。彼は短く頷き、相槌を打った。
「少なくとも俺は、そう思うぜ」
彼はそう言うと、テーブルの上に置いていたコーヒーを飲み干し、その紙コップを握り潰した。彼は屑籠に向けて紙コップのフリースローを行い、変形した紙コップは放物線を描いて屑籠に吸い込まれた。
「じゃ、俺は行くわ…」
彼はそのまま手を振り、部屋を出た。彼が出ていった後、廊下からは鼻歌が聞こえてきた。
「…なんか疲れたな」
「…そうね」
K.Kと私、部屋の中は二人だけになった。
「…ねぇ」
私は僅かに身を乗り出し、彼の方を見て口を開いた。
「…何」
彼は面倒臭そうに、こちらを向いた。彼の短めに切り揃えられた黒髪が、部屋の中で煌めいているように見えた。
「……」
「……」
沈黙。どころか、彼の表情は一切変わっておらず、むしろ、より無気力になっていた。
「…やっぱりいい」
私は呆れたような表情を作ると、紙コップを捨て、部屋を出た。
「馬鹿…」
周りに誰も居ない事を確認し、私は呟いた。呟きは廊下で反響し、より孤独感を強調していた…。
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