LIVER DRIVE

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暖かく、酸味の効いたコーヒーの香りが、私達の嗅覚を満たした。世の中に、コーヒーほど疲れた体を癒してくれる飲料があるだろうか?もっとも、アジア系の人に言わせれば「お茶」かもしれないし、「酒」という人も少なくないだろう。だが私は、コーヒーを推したい。カフェイン中毒者の、せめてもの主張だ。 「よう、待たせた」 年季を感じさせる低い声が、私の後ろから聞こえてきた。私が振り向くと、そこには、右手に湯気のたつ紙コップを持つシブ・アニル・アンバニがいた。 「遅いぞ。レディをお茶会で待たせるもんじゃない」 私の隣にいた、同じく紙コップを握るK.Kが言った。年齢差というものを全く気にしない台詞だったが、これが、彼らの信頼関係の証なのだろう。 「さて…それじゃ座りましょうか」 私のその言葉を合図に、私達三人は丸いテーブルを囲むように椅子に座った。 私達が今いるこの部屋は、ネクスト用ガレージの隣に設けられた、一種の休憩所だ。私達はミッションやシミュレーションの後、ほぼ必ずここに立ち寄って、一時の憩いを楽しんでいる。 「…でもな、やっぱりオリジナル二人はキツいぞ。ノーマルは当てにならんし」 「ん?ナジェージダにはなめた口を訊いてた癖に」 「ああ、あれはまあ、その場のノリというかな…」 直ぐ様、リンクスらしからぬ、穏やかな会話が始まった。私達がここでする事といったら、何か飲むか、下らない会話をする事ぐらいだ。 たまには真面目な話もするが、九割方はこんな調子だ。リンクスリンクスと言っても、普通の人間なんだということを、馬鹿らしく思えるかもしれないが、今更のように気付いた。 「…やあ、こんな時間まで訓練とは、感心な事だな」 「「「?!!」」」 突然、部屋の入口の方から声がした。何の気配もなかったからか、私達は慌てたように振り返る。…そしてそこには、私達のよく知る…いや、イクバールと関係を持つ人間ならば、知らぬ者は居ないだろう人物が立っていた。 「ド、ドクター・サーダナ?!」 私がそう言ったとき、私達は、思わず椅子をずらし「気を付け」をしていた。それを見て、サーダナさんは苦笑して下を向いた。 「おっと、気楽にしてくれ。私の方が困る」 そう言われたが、相手はNo.2…オリジナルの中でも最も強力な存在の一人だ。緊張しない方がおかしい。 「あ…ドクターは、どうしてこちらへ?」 K.Kが、おぼつかない口調で尋ねた。
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