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「怪我人に無茶をさせたらいかんぞ」
開き戸から入ってきた、お盆を持った老人が男の子に優しく言った。はーい、と男の子は空返事をして、「兄ちゃんまたねっ」と言い残しその場を去る。バツが悪いようだ。
その老人は、どちらかといえば痩身の翁だった。けれど、落ち着きのある言動と貫禄が脂肪を蓄えているように見える。
「済まないの、若いの。あれはまだ躾がなっていなくてな」
「いえ、とても聡明な子ですよ。何より僕を助けてくれた」
「ああ、あの子がお主を連れて来た時にはびっくりしたがな。大方、悪魔にやられたのだろう?」
「……ええ、ドジを踏んでしまいまして」
「気を付けることよ。それにしても珍しいの、今時の若いもんが敬語を使えるなんて」
「命の恩人に礼節をわきまえるのは当然です」
「無理に性格を作ることはないがな?」
老人は少年を見抜いたような一言を付けた。
少年も〝偽りの自分〟に気付かれたと悟ったが、その自分を崩さずに話を進める。
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