封印

8/15
前へ
/282ページ
次へ
「怪我人に無茶をさせたらいかんぞ」    開き戸から入ってきた、お盆を持った老人が男の子に優しく言った。はーい、と男の子は空返事をして、「兄ちゃんまたねっ」と言い残しその場を去る。バツが悪いようだ。    その老人は、どちらかといえば痩身の翁だった。けれど、落ち着きのある言動と貫禄が脂肪を蓄えているように見える。   「済まないの、若いの。あれはまだ躾がなっていなくてな」   「いえ、とても聡明な子ですよ。何より僕を助けてくれた」   「ああ、あの子がお主を連れて来た時にはびっくりしたがな。大方、悪魔にやられたのだろう?」   「……ええ、ドジを踏んでしまいまして」   「気を付けることよ。それにしても珍しいの、今時の若いもんが敬語を使えるなんて」   「命の恩人に礼節をわきまえるのは当然です」   「無理に性格を作ることはないがな?」    老人は少年を見抜いたような一言を付けた。  少年も〝偽りの自分〟に気付かれたと悟ったが、その自分を崩さずに話を進める。
/282ページ

最初のコメントを投稿しよう!

215人が本棚に入れています
本棚に追加