封印

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「何はともわれ、これも何かの縁。暖かいご飯を用意したで、もう少しゆっくりしなされ」    老人は持っていたお盆を少年の隣に置き、箸をすすめた。  盆の上に置かれているのは、湯気がもくもくと立ち上るご飯と味噌汁、お新香。  味噌汁の香りが食欲をそそり、もう三日ほど何も食べていないことを思い出すと、喉が食物を欲するようにいやらしい音を出して鳴り響いた。    粗末ではあるが、人の優しさが込めてある料理ほど美味いものはないことを少年は知っていたし、貧しい生活にも関わらず、素性も判らぬ自分に心を許してくれただけで胸がいっぱいである。  人の優しさに触れるのはいつ振りだろう。   「僕はもうここを去るつもりです。このご飯は、僕を助けてくれたあの子に……」   「そう言いなさるな。お主、デーモンシールの一員だろう? 傷の手当てをする際に、腕の刺青を見たもんでな。この小さな村で生活が営めるのもお主らのお蔭。負い目を感じることは何もない」    老人は皺だらけの顔を更に皺だらけにして、優しく笑った。    わしらに恩を返したいと思っているなら、しっかり食べて良く寝ることじゃ、とだけ言い、部屋を後にする老人の背中を、少年は黙って見つめていた。  猫背の背中で歩き方もよぼついていたが、その後ろ姿はやはり貫禄がある。
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