誕生

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 肉も皮膚もない、骨だけの死兵が、眼球のない窪んだ双眸を若い男に向けた。錆び付いてナマクラと果てた洋剣が、低く唸りながら男へと奔る。  避けきれない速度ではなかった。だが、もつれた足は脳味噌の命令なんて聞いてくれない。  赤錆のそれが迫る。  ズグリ、と無理矢理に筋を抉りながら、切っ先が男の懐に侵入してきた。  痛みで喉から空気が漏れる。辛うじて握り込んでいた剣を取りこぼし、男はその場に倒れ込んだ。 「こんな……悪魔に……。正義は、なぜ、我……に味方……しては、くれなかっ……た」  不意に、男の腹から剣が抜かれた。  死兵は剣についた血を自身の顔に塗りたぐりなら、コツコツと乾いた音を響かせた。
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