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協会の外は大勢の人々で賑わっていたが、それとは反対にしんと静まり返っている室内。
無数に並べられた物言わぬ椅子が逆に気味悪い。薄暗い室内には大燭台に置かれた数十本の蝋燭が、祭壇脇の水龍の石像をゆらゆらと照らしていた。
石像の台座の献花は溢れんばかりで、まるで人の命を現しているように見える。
水龍は両足に水晶を持ち、世の中の無秩序を全て呑み込もうとしているような大口を開けていた。
神父は水龍の像の前でパイプ椅子に腰掛け、真剣に何かを読んでいた。ジークの存在にも気付かない集中力。
祈檮書でも読んでいるのだろうか。ジークは神父に近付き、唖然とする。そこに陳列しているのは女性の露出写真の数々だったのだ。
「神に従事する者が、そんな胸だけやたらデカい二酸化炭素を排出するたげの糞製造機に夢中になっていていいんですか」
ジークが神父の後ろから声を掛けた。
神父は「うわっ」と小さな悲鳴を挙げ、持っていたグラビア雑誌を勢いよく閉じる。
「君ねえ、いるならいるって言いなさいよ。ビックリするでしょ? それに彼女たちはウンコしないもん、アイドルだから」
「……いや、人間なら糞を」
「肛門ないもん」
ジークが言い終わらない内に、神父がムキになって口を挟む。
四十歳近い大人が雑誌の偶像に心を奪われるなんて……。ジークはいつも呆れていて、脂肪の塊の何がいいのか理解に苦しんでいた。
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