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黒い法衣に龍の刺繍が施されている重たげな袈裟。その衣装を纏うだけで別人に見えるのだから凄い、と神父に会う度にジークはいつも思う。
時には司教の仕事もし、信者が敬虔に頭を垂れる説教もするというのだから驚きである。
神父は「ここじゃあ難だから向こうで話そうか」と祭壇の奥に通じる扉を指差した。
扉を開けた先には一直線に続く狭い廊下。どこからかひんやりと冷たい空気が流れて来ている。窓はなく、壁に掛けられている松明の灯りが唯一の頼りとなり、二つの影を作っていた。
「この廊下は?」
神父の後に続いているジークが口を開き、疑問を取り出す。
「君は初めてだったね。何、何てことのないただの廊下さ。私の書斎へと続いている」
前を向いたまま神父が返した。
ジークは辺りを見渡す。
〝ただの廊下〟にしてはやけに薄気味悪い。地面は冷たいコンクリートで固められ足場を確保していたが、壁は補強しておらず土の荒い側面が姿を現していた。
昔は防空壕として使われていたのだろうか。
そう言えば、神父と初めて出会った時は「何てことのないただの喫茶店さ」と言われてキャバクラに強制連行されたことをふと思い出し、今度はSMクラブにでも拉致られるのだろうかと深く嘆息した。
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