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「さてさて、話し合いはこの辺にしとこうか。今日は礼拝日だ、もう街の人々が来ている頃だろう。君はこれからどこに?」
「用があってリンドドレイクに。もしかしたら、そこで精霊の話を聞けるかもしれないし」
「聞かない方が賢明だがね。科学は権力によって抹消されてしまったのだから」
「権力なんてどうでもいいですよ。僕は僕のやりたいようにやる」
「ジークらしいよ」と神父は笑い、書斎のドアを開け、外に出るようジークに促した。
神父から預かった小説程度の本を懐にしまい、椅子から腰を上げて書斎を出る。
祭壇まで戻ると、協会の外から人の声が中まで聞こえて来た。
人の声で、今まで全く別の世界にいたような感覚にジークは襲われた。これからまた、都会の喧騒や悪魔討伐の毎日だと思うと、自然と足取りも重くなってしまう。
神父と話していたあの時間が、既に懐かしい。
愚痴を言っても始まらないか。気付けば仰いだ空は晴天。
ジークは神父に丁寧な礼をし、協会に背を向けて歩みを進めた。
つい前まで子どもだと思っていたその背中は、大きく逞しいことに神父は気付く。
「闇に呑み込まれるなよ」
神父の独り言は、風に流され誰にも聞こえない。
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