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「らしくない……」
赤髪の短髪、スーツ姿の少年は呼吸の仕方が分からなくなっていた。今まで当たり前に行ってきたことなのに、と自身を罵り、参ったな、と眉間に皺を寄せた。
折角の一張羅は無惨にも引き裂かれ、縫い目が「助けてくれ」と悲痛な声を挙げているようだった。
なるほど、通りで胸が苦しいわけだ、おまけに口から血が出ているじゃないか、内臓でもやられたかな――不思議と頭は混乱さえしていなかった。
痛みに齲まれている全身。肉を削ぎ取られたのだから当たり前か。出血している部位に視線をそそると、痛みが何倍にもなる。
霧と霧の間から朧気に写る景色に視線を変えた。つまらない眺めだ、と思う。
唐突に、また胸が痛み始めた。胸に手をやり、身体をよじる。
このようなやり取りをして数時間。今では何も感じない。その代わりに視界が霞んで見えるようになっていたが、周囲が霧に包まれているからだと少年は思い込むことにした。
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