封印

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 狼は長い舌で口の周りに付着した血を舐めていた。その極上の味を確かめるように、何度も、何度も。    久し振りのご馳走だ、と言わんばかりにそれぞれは鼻息を荒らくして興奮していた。いや、単純に獲物を葬ぶ楽しみを再確認しているだけかもしれないが、少年にとってはどちらでも良かったのだろう。  そう思わせる一言を、冷徹に解き放った。   「滅ぶのは、お前らなんだから」    無謀にも、少年は狼の群に突っ込む。  身体で風を切り裂くが、言うまでもなく、狼共は五匹揃って滑降の標的に牙を突き刺した。    身体のあちこちで走る激痛。顔が歪みそうになるのを歯を喰い縛ることでどうにか持ち堪える。    少年は反撃をしなければ刀さえ振るわず、ただ痛みと共に一直線に走り抜いた。    目指すは――地獄の番犬。    狼が喰い付いている状態にも関わらず、少年は速度を上げて身体を右に捻った。    地獄の番犬は意表を突かれた様子で、動きが一瞬、鈍る。  その隙に懐に潜り込み、眼前に見据えた標的に向かい、刀を右に大きく振り上げ――見開いた瞳は地獄の番犬を束縛して離そうとはせず、そのまま空気圧と共に振り下ろし、胴体を真っ二つに切り裂いた。    地獄の番犬のあった地面も巨大な跡が残り、たった一振りではあるがその威力を物語っている。    狼共もその衝撃を受け、点々に地面に突っ伏していく。    リーダー不在の群はあっという間に乱れ、儚い小動物の集合体にすぎない存在となった。    悪魔に容赦はしない。  確固たる信念を貫くように、怯んでいる狼共を一匹残らず刀で突き刺しては、屠った。    少年の記憶はここで一旦途切れる。
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