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あの頃と、あの時と、何一つ変わらない徹也の体温が、私の心臓を刺激する。
今更。
誰も知らないし、この先誰にも言わないつもりだけれど、私は徹也が好きだった。
10年前の春、真奈美の彼氏を一目見ようと千春と乗り込んだ教室で、とびきり人が良さそうなその笑顔を見たときから、私は徹也が好きだった。
1度だけ、関係を持った。
高校3年の時、徹也は2歳年上の彼女と付き合っていた。
けれど徹也の進学する大学が、地元から少し離れていたせいで、彼女が遠距離は耐えられないと別れを切り出したらしい。
「振られちゃった」
突然の徹也の電話に戸惑ったけれど、辛そうな徹也を私は放っておけなかった。
大学は別々で、2人きりであったのは、その時が最初で最後。
今でも、何故私だけに連絡してきたのかはわからないけれど、それ以降も徹也は変わらずに接してくれた。
だから私も、何事もなかったことにして、気がついたら10年たっていた。
思えば、あの時すでに失恋していたのだ。
先日珍しく徹也から着信があった。
みんなで集まるときは、大抵メールの一斉送信だったのに。
高校3年のあの日がよぎったけれど、期待なんかしていなかった。
けれど、どこかで少し緊張しながら、私は電話をかけ直した。
「俺、結婚するんだ」
悲しいという気持ちは無かった。
徹也への片思いは、とっくの昔に化石になって私の胸に埋まっているはずだった。
けど
やっぱり少し寂しかった。
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