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少し酔いが回ってきた頃、私はトイレで化粧を直していた。
明日が休みだからって少し飲みすぎた。
鏡を見ながらため息をついたとき、後ろから伸びてきた手に抱きしめられた。
驚いて声が出せずにいると、抱きついたままの相手と、鏡越しに目があった。
「どうしたのよ千春、びっくりしたー」
私がほっとすると、千春は、ゆっくり腕をほどき、私の化粧ポーチを漁ってグロスを取り出した。
「嫁のお腹の子供、徹也の子じゃないんだって」
一瞬、何を言っているのかわからなかった。
「アンタ、このままで良いわけ?後悔しない?」
私のグロスを塗りながら、千春は淡々と言った。
「このまま武と付き合っていいの?」
何故、武が出てくるのか、私は千春の話の飛躍っぷりにしろどもどろになる。
パタンと扉が開く音がして、真奈美が入ってきた。
「だいたいね、あんた達2人ともオクテって言うか、もどかしいというか…一発ヤってんだから彼女面すればいいのよアンタも!」
いつから聞いていたのかわからないが、当たり前のように会話に加わった。
むしろ、私は真奈美の言葉に言葉を失った。
誰にも言っていない徹也との秘密を、知っている事に。
「ホント!徹也は手は早いくせに、純情だから見てるこっちが苛々するわ」
私をおいて、千春と真奈美が意気投合。
「「アンタは徹也とフケなさい」」
私は、2人の言葉に無言で首を横に振る。
そんな抵抗に意味がない事は10年前から変わらなかった。
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