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真奈美と千春にタクシーに押し込まれると、先に徹也が1人で乗っていた。
「じゃあ徹也、介抱よろしくね」
真奈美の言葉とともに、タクシーの扉が閉まり、2人きりになった。
私は運転手に感謝する。
本当に2人きりになってしまったら、私はどうしていいのかわからなくなってしまうから。
高校最後の春休みを思い出した。
何を話して、どういう流れでああなったのか、全く覚えていなかった。
でも、徹也の熱と息づかいは、昨日の事みたいに覚えていたりして。
他の人と付き合ってみたこともあった。
好きなのかどうかもわからないまま、ふられてしまった。
どんな風に抱かれたのかあまり覚えていなかった。
思い出せるのは、徹也の腕の暖かさだけだった。
私はこっそりと徹也を盗み見る。
機嫌よく鼻歌を歌っていた。
高校の校歌ってところが、徹也らしかった。
「結婚したら、引っ越すんだ嫁の実家に」
鼻歌の後、徹也はまるで他人の世間話のように言った。
「こうやってみんなと会えることも無くなるかもしれない」
「そっか…」
会えなくなるなら、いっそ、10年前の片思いを打ち明けてしまえば、明日から別な気持ちで新しい恋もできるんじゃないかと、思いつつ、私は窓の外を見た。
雨が降り始めていた。
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