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「ずっと片思いしてたんだ」
突然の徹也の言葉に、自分の気持ちが見透かされていたのかと、驚いた。
徹也は窓越しに、降り出した雨を眺めている。
私の事じゃ、ない。
ほっとして、私も同じように反対側の窓から降り出した雨を眺めた。
じゃあ。
「奥さんになる彼女のこと…?」
徹也は私の問いに答えることなく言葉を続ける。
「もー8年くらいずっと好きだった女でさ」
8年。
ちょうど大学1年の頃。
確かに、徹也は高校を卒業してから彼女がいた話を聞かなかった。
そういう話をしないだけで、居るもんだとばっかり思っていた。
長い間、徹也も長い片思いに苦しんでいたんだ。
でも。
「よかったじゃん、そんな想い人と来月めでたくゴールインだなんて」
徹也はゆっくり首を振って続けた。
「でも、その子の事を、俺より昔から好きだった奴が居て、そいつと付き合ってるって聞いて、俺は8年間何もできなかった」
お腹の子、徹也の子供じゃないらしいよ…。
千春の言葉がよぎった。
「その子が幸せになってくれたらいいって思ってたんだよ…なのに…」
やっぱり…。
話は本当なんだ。
私の胸がチクチクと痛んだ。
「武と付き合ってたんじゃないのかよ…」
私は突然の言葉に徹也を見た。
徹也の瞳は、もう窓の外を見ることなく、真っ直ぐ私に向いていた。
雨音が強くなった。
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