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私達、付き合っていても、結果は同じだったかもしれないね。
お互い相手を伺いすぎて、結局何も生まれないままだったから、終わることもなかった。
駅までかなり長い距離だったけれど、徹也と私は2人並んで歩いた。
手を、繋いだまま。
途中、昔話から昨日の話まで、取り留めもなく話した。
私と武が付き合ってるという噂が、高校の時からあったと言うことを私は初めて知った。
いつ二人が言い出してもいいように、みんな知らん顔をしていたらしい。
武が私を想ってくれているのは知っていたけれど、それ以上の関係にはならないまま卒業して、今武には彼女がいた。
彼女のお腹の子供が、徹也の子供じゃないのは本当だった。
奥さんになる彼女は、8年前、遠距離が嫌で別れたはずの元カノらしいが、それ以上のことは聞かなかった。
そんな事を話しながら歩いていたら、雨は少しずつ弱まっていき、雨と一緒に私の涙もゆっくりとおさまった。
駅に着く頃には、雨も涙も完全にあがって、私の顔を指さし徹也は笑った。
「すげー顔」
私は化粧ポーチを取り出そうとしてやめた。
高校の時は、私は化粧なんてしなかった。
いつから、こんな風に自分を取り繕っていたんだろう。
「かわんねーな、お前は」
徹也はそう言ったけど、私は変わったんだとおもう。
いつまでも、10年前のままじゃいられないんだ。
駅に着くと、どちらからともなく手を離した。
「終電には乗れるな」
今、帰りたくないと引き止めたら、徹也は朝まで一緒にいてくれるだろう。
私はゆっくりと口を開いた。
「徹也、私たちずっと友達だよね」
今更、意味がない。
徹也は優しく頷いた。
「当たり前だろ、俺達ずっと友達だよ」
私は笑って徹也に手を振って改札へ向かって歩き出した。
ずぶ濡れの髪からまだ滴る水滴が再び溢れ出した涙と混ざってぽたぽたと地面に落ちた。
私は決して振り返らない。
徹也と会うことは、多分もうない。
それでも、この先もずっと、私達は友達のまま。
友達のまま。
dear friend・終
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