封じたものは想いだけ(バランスを崩したら最後)

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人間の記憶って案外すごいもんで、忘れてしまった古い記憶もなんかのひょうしにちょっとあけたら、そのときの感情とか光景とかがいっきにドバーって出てきて、まるでパンドラの箱。 ていうのは受け売りで。 いつかあいつが言っていたことなんだけど。 「ね、キルア。パンドラの箱って知ってる?」 ゴンは今まで読んでいた本をパタンと閉じて自慢げに聞く。 「なに。神話?」 ゴンが読んでいたのはこいつには似合わない分厚い本。 「うん。ギリシャ神話なんだけどね、」 『パンドラは好奇心に負けて箱のフタを開けてしまいました』 『箱の中からは、憎悪・猜疑・飢え・狂気、あらゆる災いが世界に飛び散ったのです』 「へえ、んなヤな箱あってたまるかよ。ギリシャ神話ってけっこうドロドロしててグロいよなあ。」 神話なんて、どっからこんな話できたんだか。 憎悪だとか狂気だとか、そういう汚え感情がどうのって聞くと、自分のことみたいで胸くそ悪い。 「でもね、その箱の底にひとつだけ残ったものがあったんだよ。」 「それはね、“希望”。」 そう言って、どこか幸せそうに笑むゴンを見て、なんでかすごくあたたかい気持ちになった。「オレ思ったんだけわない?」
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