あの人が消えないの(いいえ、消したくないだけ)

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今日は昨日にも増して輝く太陽が眩しかった。 仕事も一段落ついて、久しぶりに帰ってきたクジラ島。 ミトさんはいつもどおり迎えてくれた。 何も言わなかった。 ミトさんも何も言わないでいてくれた。 ただ少し悲しそうな顔をしたけれど、気付かないフリをした。 その方が楽だと思った。 お昼を食べたあと森へ行った。 そこは、夏の暑さが嘘のように涼しくて、オレだけ世界からおいていかれたような気がした。 この森で一番長く生きている大木に登って、一番丈夫そうな枝に腰かけた。 慣れているはずだったけど、前に登ったときは枝一本一本がもっと太くて大きく感じた気がする。 確かあのときは大切なあの人が一緒だった。 何も知らなかった。 ただ純粋にその時を精一杯生きていた。 無邪気に笑っていたあの頃の自分が、心底憎いと思う。 あれから何年経っただろう。 しばらく考えてずっと昔の記憶を掘り起こす。 彼のことを忘れたことはなかったから、それが鮮明になっていくのにさほど時間はかからなかった。 気付くと自分の服にしみができていた。 涙はあのとき枯れたと思っていた。 綺麗な思い出にしてしまえたはずだった。 それなのに。 未だにオレは未練がましくあの人の背を探してる。 「─会いたいよ…」 喉の奥から絞り出した声は、風に乗って虚しく消えた。 (残ったものは痛みでした。) fin. (080812)
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