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走るようにして大学のキャパスを後にした悟は、言い知れない気分に苛まれていた。
(何で?何で今、僕はこんなに苛ついてるんだ?)
(何でこんなに不安になってるんだ?)
(何で僕はこんなに汗をかいてるんだ?)
(身体が熱い……胸が苦しい……何が僕の胸を締め上げてるんだ?)
理不尽に不快感を誘う高山の言葉と夢の中の田上の台詞、セッションでの澤田からの指摘までが何度も繰り返し悟の頭に響き渡った。
「お前は周囲から浮いてたからな。」
「大切なことが見えなくなるぞ。」
「シンプルなことに不注意になっているんじないですか?」
「先生と僕は同じだからですよ。」
同じフレーズが壊れたレコードの様に思い出された。
そしてついには3つの声は折り重なり悟の頭の中で不協和音を奏で始める。
そのリピートはもはや拷問に近かった。
その容赦無い責め苦は、あたかも悟の精神に物理的な形があるかのように、それを絞り上げ、突き刺すかの様な苦しみを感じさせた。
(僕は……)
(僕は、壊れる……)
(壊れていく……)
思考が闇に沈んだ。
いや、自分が取り乱している理由すら明確にできないままに、悟は自分の思考から逃げた。
思考の暗闇の中で、悟の理性は膝を抱えて踞りこんだ。
ともかく帰宅した悟は万年床に倒れ込んだ。
「そう言えば、今日は何も食べてなかったな。でも今は、もうただ眠りたい。」
独り言を呟く。
不快な空腹感すら、今の悟には現実との接点として貴重なものに思われた。
その頼りない現実感がかろうじて悟を眠りの中に誘った。
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