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翌日、悟は仕事を休んだ。
身体と心の憔悴が、悟の仕事への情熱をも奪っていた。
何年も閉じられたままのカーテンが、外界から悟を守ってくれているように感じる。
部屋の中が唯一の安住の場であるかのように、悟はベッドで丸くなっている。
午前中の佐和子からの携帯に簡単な言葉で応答し、無断欠勤の責めからは辛うじて逃れた。
とにかく眠りたかった。
夕刻過ぎ、既に睡魔は去っていたが、身体は相変わらずベッドの上から離れることを嫌がっている。
しかし、昨日からの空腹が、いつになく怠惰な悟をも行動に駆り立てた。
(とりあえず、コンビニに何か買いに行こう。明日は仕事に行かなくては。)
眠りから解放された思考に、身体がのっそりと反応する。
面倒臭い身振りで上下のジャージに着替えると、壁の鏡を覗き込む。
髪の寝癖に何度か指を通し、手のひらで軽く押さえてから、部屋を出た。
コンビニで数種類のレトルト食品と数本のビール、マイルドセブンを2カートン買い込むと、膨れ気味のコンビニのビニールを両手に下げて帰路につく。
それは、アパート近くの交差点で横断歩道を通り過ぎた時であった。
悟は形容不可能な視線を背中に感じた。
悟はその場で凍りついた様に立ち竦んだ。
鳥肌と顔に吹き出す汗が、背中を貫く異様な視線が単なる錯覚ではないことを伝えている。
それは悪意に満ちていて、自分を無慈悲に観察している様で、それでいて自分を見守っている様な、とにかく説明しがたい感情が込められているように思えた。
動画のこま送りの様に、悟はぎこちなく後ろを振り返えった。
そこには、二人の男の姿があった。
それは刑事の中野と菅井だった。
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