崩壊

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 中野に付き添われる様に警察署の玄関をくぐる悟の後に、コンビニの袋を2つ手にした菅井が続いた。    人だかりのしている受付を抜けて、自動販売機の明かりで薄暗く照らされる廊下から、階段を上がる。  中野が2階の刑事一課のドアを開けると、数人の刑事の視線が一斉に悟へ向けられた。  刑事達の視線を意識的に無視し、取調室に入った悟に、菅井が部屋の奥側の鉄パイプ椅子を勧めた。  中野は机越しに腰掛け、菅井の耳元で一言二言何かを伝えた。  菅井は無言で部屋を出ると、あまり清潔には見えないカップにコーヒーをいれて来た。  やはり無言で部屋を出る菅井を見届けた中野は、悟の方へ向き直る。 「コーヒーをどうぞ。お買いになっていたお食事もここでされて結構です。タバコをお吸いになりましたよね。遠慮なくどうぞ。」 「どうも、いただきます。」  コーヒーが喉を通り胃袋を押し広げる熱溜まりを作る。  腹部の温まりが、悟を心持ちスッキリさせた。  タバコに火をつけ、深く吸い込む。十分に吸い溜めた煙を時間をかけてゆっくりと吐き出した。 「刑事さん。捜査に協力するのは、僕としても望むところですが、僕が容疑者なんてとんでもない。任意と言うことなんで、お話は手短にお願いします。」  不思議なもので、コーヒーとタバコで日常の実感を噛み締めた悟は、本来の語り口を取り戻していた。 「私も、出来れば手短にと考えています。いくつか確認させていただきたいことがありますので、ご協力下さい。」  中野の声は相変わらず淡々として感情が込もっていない。  体温を感じない中野の言葉も職制上の役割からくるものだと今は割りきれている悟は、それに動じることもなく次の言葉を待った。
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