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「久しぶり。」
本当に久しぶりの電話で。
時間がなかったわけじゃないし、したくなかったわけでもないけど。
なんとなくタイミング逃してきたから。もうずっと。
きっと相手も同じなんだろう。
『ほんと、久しぶりだね。』
ああ、ゴンの声だ、って少し目を瞑ってあたたかい気持ちに浸ってみた。
しばらく沈黙が流れたけど、それもどこか心地よく思う。
ゴンも同じだといい。
『雨、降ってるの?』
「ああ、聞こえた?」
『うん。駄目だよ風邪ひくから。窓閉めなよ。』
「ひかないよ。」
知ってるくせに。
普通の人よりも断然丈夫につくられてるこの身体が、風邪なんてひいたことないってことぐらい。
だけど、言われたとおり窓は閉めて。
そしたら雨粒が透明のガラスにあたって、いくつもの線をつくっていく。
なんでか目が離せなくなって、じっとそれを見つめた。
僅かにきこえる雨音に耳を傾けると、時間が止まってるみたいに感じて、
ああ、なんか、オレたちだけみたい。
なんて思ってたらゴンが静かに口を開いた。
『寂しい?』
思ってもみない問いに、少しだけ驚いたから素直に聞き返す。
「なんで。」
『だって、雨、降ってる。』
確かに雨が降っていて、でも今までに雨が降ったことなんて数えきれないほどあって。
言われて、気が付いた。
オレがなんでか電話したくなった理由。
無性に声が聞きたくなった、理由。
ただ、寂しかったんだ。
似ていたから。
別れたあの日の空に。
(言わないよ、会いたい、なんて)
二度と離れられなくなる。
(080829)
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