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「昴流ちゃんに飲ませてあげよう思うてな、おばあちゃん美味しいお茶を取り寄せといたんよ」
ぼくの前に湯呑みが置かれる。
御影のおばあちゃんは自分の分も淹れると、口を付けずにこにこ嬉しそうにぼくのことを見ている。
一口飲むと口の中にお茶のいい香りが広がる。うん、本当にいいお茶だ。
「それにな、とっておきのお茶菓子もあるんよ、美味しい羊羮。昴流ちゃん、食べるやろ?」
「いただきます。でもその前に――」
お茶の香りと味を楽しみつつ開け放たれた障子から、気になる中庭の様子を窺う。
屋敷の中庭は立派な日本庭園になっている。敷地には玉砂利が敷き詰められ、赤松や石灯籠がある。庭の中心の池では立派な錦鯉が悠々と泳いでいるのも見える。
月影家(うち)にも昔はこんな庭があったそうだけれど、手入れが大変だということでぼくのおじいちゃんがとり潰したらしい。ここに残っているのは、見栄や見映えを常用し御影のおばあちゃんの趣味だろう。
そこに、
「――そろそろ許してあげない?」
御影姉妹が正座させられていた。砂利の上に。直接。
「駄目や」
おばあちゃんは笑顔を崩さないままきっぱりと即答し、お茶を飲む。
厳格な御影のおばあちゃんもボクにはなにかと甘いから言えば聞いてくれるかとも思ったのだけれど、自分の孫に対しては厳しい態度を貫くようだ。
「……」
「……」
剣子姉さんは神妙な様子で、刀子姉さんは少し憮然とした様子で、二人ともおとなしく正座している。
砂利の上だ、足が相当痛いに違いないが二人とも表情に出さない。
「二人とも反省してるみたいですし……」
「昴流ちゃん」
二人を擁護しようとすると、おばあちゃんに言葉を遮られた。湯飲みが静かに机に置かれ、喧嘩を止めた時のような真剣な表情がぼくに向けられる。空気が硬質化したような気がした。無意識のうちにぴんと背筋が伸びる。
「昴流ちゃんは月影の家を継がなあかんのんやから覚えとき。反省したからって罰をあたえんでええってもんやないんや。重要なのは――」
体面や。とおばあちゃんは続けて、湯呑みを取ってお茶を飲む。
「……」
おばあちゃんの言ってることは優しくはないかもしれないけれど正しい。
身内に言うことではないかもしれないけど、それを言うならぼくも身内の問題に口を挟むべきではないのだろう。
これ以上は、何も言えそうにない。
「でもまあ……」
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