一日目/昼

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 それでもなんとかしてあげれないかと、横目に姉妹の様子を窺っているとおばあちゃんがおもむろに口を開いた。ぼくをもてなす時と同じ、柔らかな口調で。 「昴流ちゃんの手前、少し厳しくし過ぎたかもしれんな。剣子、刀子、もうええで」  許しを得た姉妹の様子を見ると、顔を見合わせてまるで真昼に幽霊でも見たかのような様子で目を真ん丸にしていた。 「なんや、せっかく美味しいお茶と羊羮があるのにいらんのか?」 「いる! いるよ!」  からかうような御影のおばあちゃんの言葉に慌てて刀子姉さんが慌てて駆け寄ってくる。  正座に慣れているのか足取りに澱みがない。ぼくならあんなに慌てて動き出したら足が動かず絶対にこけるだろうなと思っていると続いて剣子姉さんも歩いてきて、四人全員が卓袱台につく。  二人の分もお茶請け用の小皿と湯呑みが用意してあるところを見ると、おばあちゃんは最初から許すつもりだったのかもしれない。 「ほら、せっかくなんだから遠慮なくお食べ」  御影のおばあちゃんの言葉の後に、「いただきます」と三つの声が合唱した。 「そういえばさ、昴流は今日はどうするんだ」 「今日?」  何のことだろうかと首を傾げるが、次の瞬間には思いあたるものがあった。  この島に来た目的を忘れかけていたことを恥じながら、答えを返す。 「よければ、今日からやらせて貰えると嬉しいな」 「最初の一日ぐらいゆっくりした方がええんやないか? 疲れとるやろ」  剣子姉さんの提案ももっともだ。初めての一人旅、しかも長旅だ。正直疲れている。 「おいおい、つれないこと言うなよ姉貴。時間になりゃ皆出払うんだから昴流暇になるぜ? だったらあたしらと出かけた方が、あたしらも楽しいじゃん」 「それを言うなら私かて暇になるんやけどねぇ、刀子」 「え、いや、それは……あははは」  どうも刀子姉さん、おばあちゃんのことをすっかり忘れていたようで、おばあちゃんが鋭く目を細めたのを見て語気を弱める。 「おばあちゃんとしては、最初の一日ぐらいゆっくり休んだ方がええんやないかと思うで」  口にはしないがおばあちゃんとしては、ぼくとゆっくり話したいというのもあるのだろう。  えと、これはどうしたものかな。姉さんたちと一緒に出かけるのも楽しいのだろうし、ゆっくりおばあちゃんと話して疲れを取るのもいいかもしれない。  ここは……
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