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「刀子姉さん?」
「おう、なんだ?」
ぼくの呼びかけに対し、ずいぶん前を歩く刀子姉さんは振り向かずに返事を返す。
「えと、夜の準備をするんだよね?」
刀子姉さんはそう言ってぼくのことを連れ出したはずだ。それと今の状況がイマイチ繋がらず、そう尋ねてみる。
「そうだぜ。それよりちょっと黙っとけ。ここらはおふくろの部屋の裏手だからな、あんま大きな声出すとおふくろに見つかりかねない」
……おばさんに見つかったらなんだと言うのだろうか。いや、それを言うならそもそも何故ぼくたちはわざわざ家の外周を回って、こんなものを運んでいるのだろうか?
疑問は尽きなかったが、ここは一先ず堪えてぐっと押し黙る。しばらく静かに歩いていると、「もういいぜ」と刀子姉さんから喋る許可が出された。
聞きたいことはたくさんあるけれど、先ずはこれだろう。
「……これ、どうするのさ?」
ぼくたちの運んでいるこれ。いったい何に使うのか?
「はあ? 決まってんだろうが。お前はコレか」
そしたら何を言ってるんだ、とばかりに刀子姉さんは呆れ顔でこちらへ振り向いて、人差し指をくるくると頭の横で回す。
「登るためにあるんだろーが。梯子ってヤツはよ」
「よし、これでオーケー!」
僕たちが運んで長梯子を御影家の敷地内にある大きな蔵に立て掛けると、満足げに刀子姉さんはパンパンと手を叩いた。
二つ折りにした梯子は伸ばすと丁度倉の天窓の辺りまで伸びていた。これは、まさか……。
「刀子姉さん、もしかして倉に侵入する気!?」
「しーっ! 声がでけえっての!」
「むぐぅ!?」
大声を出すと、刀子姉さんに羽交い締めにされて口を塞がれた。
しかし、お約束と言うか……刀子姉さんの声の方が絶対に大きかった、今のは。
「いいか昴流。ばあちゃんのさっきのあたしらへの仕打ち見ただろ? もうお前は共犯だ、見つかりゃお前も同罪だぞ。痛い思いしたくなかったら、静かにしろ。わかったな」
改めて自分の声の音量を調節して、耳元で囁くように刀子姉さんはぼくを脅迫する。
ぼくが頷くと、「ようし」という満足げな呟きと共に、ぼくはようやく羽交い締めから解放された。
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