一日目/昼 2

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「昴流。お前が何をしに来たか、目的を言ってみろ」  刀子姉さんはぼくの前に回り込むと、胸を張って堂々と腕組みしてそう言った。 「えと……この夏の間、御影の家の夜の見回りに参加させてもらうために」  この島にはある風習がある。  『夜、日が落ちてからはけして出歩いてはならない』そんなよく聞くような風習だ。しかし、それを現代まできっちり守り抜いてきたのはこの妖怪島ぐらいのものだろう。  この島には外灯がない。ただの一本すらだ。それはこの男箸島だけでなく、近代化の進んだ隣の女箸島でも同じことなのだ。信号だって、日が暮れると全てが消える。  何故なら、どちらも夜誰も出歩かないならば、必要がないものなのだから。  御影家はそんな島で夜出歩く。夜出歩いてきちんと島の皆が家に帰っているか、見回りをする仕事を代々引き継いできた家だ。ぼくは、その見回りに参加させて貰うためにこの島に来た。  刀子姉さんは大きく頷く。 「確かに。確かにそうだけどよ、違うだろ。間違っちゃいないけど、そういうことじゃないだろーが。お前の目的は」  頷きながらも、刀子姉さんの表情は不満げだった。  確かにぼくの答えは正しいけれど、それは核心をついてはいない。さっきの島の言い伝えもそうだ、大事な部分が抜けている。  『何故見回りに参加するのか』核心はそこにある。  それは―― 「妖怪に、会うために」 『夜、日が落ちてからけして出歩いてはならない。何故なら、夜は妖怪の生活時間だから』  妖怪島の、言い伝え。  ぼくはその妖怪に会わなければならない。それがぼくの実家、退魔術師の総本山、望月本家の掟だから。一人前になるための、研修なのだ。これは。 「そう、それだ。さっきは準備って言ったけどよ、そいつは正確じゃあない。昴流、これは本番だ。あたしらは今から妖怪に会いに行く!」  そう言って刀子姉さんは倉の天窓を指差した。それって、つまりは……。 「ええっ!? つまり倉の中に妖怪が――」 「だから! 大声出すなっての!」  思わず大声を出すと、間髪入れずに刀子姉さんに羽交い締めにされ、怒鳴られる。 「そうだよ。あん中に居るんだよ」  そうしてから、刀子姉さんは再び声の大きさを調節して、大きく頷いてそう言った。
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