一日目/昼 2

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 小さい頃、親に連れられて御影の家に遊びに来たとき、倉には近付くなと何度も言われた。  倉にしまってある大切なものを誤って壊したらいけないからかと思っていたけれど、もしかして倉に近付くと危ないから……? 「大丈夫だって。危ないこたあねーよ。怖いやつじゃない」  そんな不安が表情に出ていたのか、刀子姉さんがぼくの頭を撫でる。そしてもう大声は出さないと判断したのか、羽交い締めからも解放された。 「まあ、夜の準備っちゃあ準備だ。練習……つった方がいいか? 見回りの前に、ある程度妖怪に慣れとこうってことだ」 「でも……」  さっきは小さい頃……と言ったが、別に今なら倉に入っていいというわけでもない。何度も言ってるから、もう既にぼくにとっては当たり前のことだから改めて言わないだけで、倉に近付いていいということじゃないだろう。  刀子姉さんだって入るのは許されないはずだ。倉の鍵を持ち出すんじゃなくて、わざわざ梯子を使って倉の天窓から侵入しようとしているのだもの。  でも……でも、だ。 「昴流だって会いたいだろ? 妖怪」  渋る様子のぼくを見て、刀子姉さんはニヤリと笑う。 「わかる、わかるぜその気持ち! あたしも初めての見回りの時もわくわくしたからな!  それなのになんだ、姉貴もばあちゃんも、『最初の一日くらいゆっくりしたらどうや?』って、昴流は見回りを楽しみに来てんのに! まったく酷い奴らだぜ!」 「いや、二人はぼくの体を気遣ってくれただけで、酷くはない。むしろ優しいよ」  でも、刀子姉さんの言ってることは概ね正しい。妖怪に会うことは怖くもあるが、未知との遭遇に対する期待感の方が大きい。有り体に言うと、わくわくしていた。 「それで、どうすんだ昴流。見回りを待たず、一足先に妖怪と会ってみるか。それとも怖じ気づいて引き返すか?」  刀子姉さんはぼくに顔を近付けながら二択を迫る。ぼくの出す答えなどわかりきっているとでも言いたげに、にやにや笑いを浮かべながら。  ぼくは―― 「……会いに行く」  いけないことだとわかっていても、ぼくはぼくの気持ちを裏切ることは出来なかった。
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