一日目/昼 2

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「刀子姉さーん」 「こっちだ、昴流」  埃っぽい部屋の中には裸電球が一つぶら下がっていて、刀子姉さんがその下で手招きしている。  屋根裏ということで流石に狭いけど、なんとか腰を屈めずとも進んでいける高さはあった。 「そこをどけ刀子。昴流とやらが見えんぞ」 「ふぇ?」  突然、こちらに背を向けている刀子姉さんの向こう側から女の子の声がした。 「隠してんだよ、九十九」  刀子姉さんは、自分の正面を見下ろしてけたけたと笑っている。  どういうことか理解すると、どくんと胸が高鳴った。  居るのだ。刀子姉さんを挟んで向こう側に、居る。妖怪という存在が。 「さあ昴流。心の準備はいいか?」 「ちょ、ちょっと待って!」  とりあえず、心を落ち着けよう。心臓のドキドキは止まりそうもないけれど、少しでも冷静に―― 「えほっ、えほっ!」  そう思って深呼吸したら、倉庫の屋根裏の埃っぽい空気にあてられて咳き込んでしまった。  はははという刀子姉さんの豪快な笑い声と、それとは別のくすくすという笑いが聞こえてくる。  ……恥ずかしい。 「も、もう大丈夫。心の準備は出来たよ」  顔が熱い。でもまあ、おかげで緊張はほぐれたから結果オーライだ。 「って、刀子姉さん! 笑いすぎ!」 「いや、すまん……すまん」  腰を折って笑い続けていた刀子姉さんがようやく笑いやむ。背中ごしに、涙を拭う動作がわかった。 「そいじゃ、ご対面だ」  ごくり生唾を飲み込む。  壁になっていた刀子姉さんがゆっくり横に動いて、裸電球の光に照らされ床に座る女の子の姿が露になる。  頭の大きなリボンと、身に付けている着物が特徴的だ。特に着物は袖も裾も異様に長くて、余った布が床板の上に広がっていた。  そうなのだ。そんな装飾品ぐらいしか、特段目につくことはない。そこに居たのは見た目ぼくたちとなんら違いはない、可愛らしい女の子だった。 「えと……」 「お前が昴流か。刀子から話は聞いているぞ。九十九(つくも)の銘(めい)は九十九と言う」  ぼくがなんと言ったものか迷っていると、九十九ちゃんの方から自己紹介をしてくれた。 「うむ。聞きしに勝る美丈夫だな。刀子は名刀のように麗しいが昴流、お前は花のように可愛らしいな」image=381347728.jpg
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